2月18日、「米国市民権法2021(U.S. Citizenship Act of 2021)」が正式に議会に提出されました。バイデン大統領が就任直後に発表した包括的な移民改革案に基づくこの法案は、成立までにはまだ多くの難関があるものの、トランプ前政権の反移民政策が終わり、アメリカ本来の移民に寛容な姿勢へ回帰しようとする点で希望が持てるといえます。
この法案には、前政権下で異常に遅延していた移民関連業務を正常化する強い意志だけでなく、30年ぶりとも言われる大胆な救済改革案が含まれています。もし可決されれば、1,000万人以上の書類不備(不法滞在)者に合法的な滞在資格を与える道が開けるだけでなく、家族呼び寄せや就労による移民手続きが全般的に容易になり、その過程で家族ができるだけ一緒に過ごせるようになる可能性があります。
300ページを超える膨大な法案の中で、最も重要と思われる2つのポイントを具体的に見てみましょう。
不法滞在者に対する救済策
この救済を実現するため、法案では「合法的移民見込み(lawful prospective immigrant)ステータス」という新しい在留資格を設けています。救済策は以下2つのルートに分かれますが、その最終目標は合法ステータスなしで苦しい生活をしていた人々に合法的身分取得の機会を提供することです。
- 不法滞在者
- DACA(未成年時の入国者に対する強制送還猶予)対象者、短期農業従事者、TPS(一時保護ステータス)対象者
2021年1月1日時点で米国内に滞在していた不法滞在者は、「合法的移民見込み」ステータスを取得し、就労および海外渡航が可能な状態で5年間生活した後、納税や犯罪歴調査などを経てグリーンカードを申請できるようになり、グリーンカード取得から3年後には市民権申請も可能になります。一方、DACA対象者および短期農業従事者、TPS該当者は5年の猶予期間なしに即座にグリーンカードを申請できます。
さらに、米国で6か月以上1年未満の不法滞在後に出国した場合、3年以内の再入国禁止、1年以上の不法滞在であれば10年以内の再入国禁止という制度も廃止されることになります。
家族・就労移民の活性化
家族移民については、ビザの問題で家族が長期間会えない状況を改善しようという狙いがあります。これまで、海外在住の家族がグリーンカードを申請する場合、ビザが下りず米国入国がほぼ不可能でした。しかしこの法案では、I-130申請が承認された段階で「Vノンイミグラントビザ」という一時滞在ビザが発行され、米国で家族と一緒に暮らしながらグリーンカードの発行を待つことができるようになります。これは大変画期的な策で、この法案が成立すれば、長年にわたり審査待ちで離ればなれになっていた多くの家族にとって朗報となるでしょう。
就労ビザに関しては、議会が定める年間の就労ビザ枠を拡大するとともに、トランプ政権時代に拒否率が6%台から30%台に跳ね上がったH-1B専門職ビザの発給も正常化を図るとされています。また、この法案にはH-1B保有者の配偶者に就労許可を与える案が含まれ、21歳未満の子どものみ帯同可能だった方針から年齢制限の撤廃が行われます。さらに就労ビザの国別上限枠を増やし、特にSTEM分野の高学歴人材には特別な優遇を提供するなど、専門職および技術職のイミグレーションを拡大する方策が盛り込まれています。
トランプ政権下ではUSCISによる審査が極めて厳格化し、申請案件が滞留して却下率も飛躍的に上昇しましたが、本法案ではこうした移民手続きを近代化し、迅速化するための手段が含まれています。
また、DACA制度の復活(新規受付の再開)、移民取り締まり部隊による無差別的な強制送還の緩和、抽選による移民枠の拡大などについても法案に盛り込まれています。
前述のとおり、この法案が上院と下院の両方を通過して法律として成立するまでには多くの壁があり、時間もかかりますし、法案の主要項目がすべて通るとも限りません。しかし、寛容な移民政策の時代が訪れようとしているというだけでも歓迎すべきことです。
実際のところ、これまで移民が難しくなったのは、トランプ前大統領の数々の大統領令などによって移民手続きが複雑化されたからであって、移民法そのものが改正されたわけではありません。言い換えれば、USCISの行政運営は、現政権の視点や指針、上級部局からの指示などによって大きく左右されるのです。したがって、今回の改革案がすべて法制化されるかどうかにかかわらず、USCISの運用方針自体が大きく変わり、移民待ち期間の短縮化や滞留している案件の迅速処理など、多くの前向きな変化が期待されるでしょう。